コーヒーを焼く(その2)

今、コーヒーを焼くのに、中古で買ったラッキーコーヒーマシンという会社の直火4kg焙煎機を使っています。改造・改良は行っていません。他のコーヒー屋さんのページを読むと、様々な改造を行ったりしていますが、今のところ私はその必要を感じていません。自分でイメージしている焙煎の進み方を実現できるからです。
コーヒーを焙煎する作業は非常に単純です。熱を加えるだけです。
加える熱を、豆が均一に焼きあがるように攪拌したり、発生するガス(煙)を排気したりする機構がつきますが、基本的には、豆に熱を加えるだけです。
ものを作る際、一番大事なのは、最終的にどうするか、どうしたいのか、ということです。コーヒーの場合は、生の豆をどんな味のするコーヒーにするか、したいのか、ということです。私は、元々の生豆は非常に美味しくなるものだと思っていますし、そうなるようなものを探して買っているつもりです。その元々持っている美味しさを、どれぐらいまでの割合で引き出せるかだと思っています。
コーヒーの生豆を加熱すると、それによって化学的な変化をします。コーヒーは、非常に多くの物質の集合体ですから、加熱によって生じるプロセスも多種多様です。
コーヒー豆は植物の種子ですから、部位によって役割が異なり、均質ではありません。焙煎してもその性質は変わりません。これらから、加熱の仕方の微妙な違いが味に大きくかかわってきます。
豆を焙煎機に入れ焼き始めると、豆は少しずつ変わってきます。色、大きさ、表面の状態、香り、……。それらを感じながら焙煎機を操作します。操作する部分は2箇所、ガス量の調整バルブと、排気の量を調整するダンパーです。
以前は、始終温度計を見ながら、ガスのバルブとダンパーをいじっていましたが、今はほんの数回だけ触ります。温度計は焙煎機に豆を入れるとき以外はほとんど見なくなりました。豆の変化に対して温度計の表示がついてこないのです。豆の変化(焙煎ドラムに豆が当たる音、豆がはじける音の音色、間隔、大きさ、そして香りなど)と、たまに時計を見ながらじっと待っているだけです。
味に影響するポイントは、そんなに多くありません。肝心な部分の進み方が、イメージ通りにいく時は調子のいいときです。生豆を見て、焙煎機が所定の温度になったら豆を入れ、ガス圧を決めると、そのままでこの辺という時間になると、最初のチェックポイントを通過します。ほんの少しだけ、ガス圧とダンパーをいじり、また予定通りに次のチェックポイントがきます。焙煎機の前に腰掛、半分うつらうつらしながら、豆の変化を見ていると、豆が勝手に良いコーヒーになってくれます。
でもこんな日は月に一度か二度しかありません。気温・湿度など気象条件の変化、生豆の状態により、微妙にずれます。
今の時期は、寒さが安定しているので一年で一番いい時期です。気温の変化が少ないこともありますが、空気中の水分が非常に少なく、相対的に湿度の変化がほとんどありません。
どうも焙煎は、豆がある状態から別な状態に変わる際の温度と時間が鍵を握っているようです。温度と時間は、相関しています。温度が高ければ、時間は早く進みますし、温度が低ければ遅くなります。ある温度域をどれぐらいの時間維持するかによって、生成する物質の種類と量が決まってくるようです。その物質の種類と量が味にかかわってきます。焙煎機の種類・構造によって、蓄熱・排気の特性や熱量が違ってきますが、時間と温度の変化が同じようであれば、同じようなコーヒーになると思います。最終的には焼く人の個性が出てくると思います。そして、その先にはじめて焙煎機そのものの個性・特質が姿を現すと思います。
今までコーヒーを焙煎してきて、少しだけわかったことがあります。
コーヒーを焙煎機に入れます。最初にいわゆる「蒸らし」「水抜き」と言われる工程がありますが、ここは結構ラフでいいようです。この工程は、豆の足並みを揃え、豆の組織を緩め、次の「煎り」の工程のための前駆物質を作ります。
 焙煎機の構造、生豆によってこの工程が大切になる場合もあるようですが、普通の豆の場合は、火力のばらつきに対しての味の変化は少ないようです。
次に「煎り」の工程が、コーヒーの性質に一番かかわってくると思います。どのタイミングで「煎り」に入り、どんな速さで進むのかということです。ここは化学的にいうと、コーヒーを作る様々な物質が、加水分解をするのですが、ここでの火力の違いにより、生成する物質とその量、豆の内外の焙煎度合いのバランスに違いが出てきます。
最後に、「焼き」に入ります。ここは、「煎り」まで出来た物質が、焼ける(燃焼する)工程です。焼けることにより更なる物質に変化していきます。ここは更に大切です。どこまで焼くのか、どこで止めるのかによってコーヒーが大きく変わります。また、この工程は、便宜的に分けたので、実際には「蒸らし」と「煎り」、「煎り」と「焼き」は同時並行で進みます。失敗焙煎の典型的なものに「芯残り」というのがありますが、これは、外側は「焼き」の状態で、芯の部分が、「蒸らし」の状態になっているものです。
「煎り」で出来た物質をどの程度残し焼くのかで、味が変わってきます。全部焼ききると、苦いだけのつまらないコーヒーになります。焼ききると書きましたが、どうもこの工程は、勝手に焼けていく(燃えていく)のを待つか、ほんのちょっと焼けていくのをセーブした方がいいように最近は思っています。
先の日記で、一連の変化の写真にしましたが、普段はほとんど見ません。豆の種類にもよりますが、ぼちぼちと2ハゼ目がはじまり、少しずつにぎやかになってきますが、頃合をみてテストスプーンでサンプルを取り、確認をしてひといきおいて排出口を開きます。豆が常温になるまで冷却して出来上がりです。

kick について

kick 時々 moct どちらも名前のもじりです。kick は姓からですし、moct の方は名前の音読み+αです。 kicktickは要するに私のようにということで、基本きまぐれ、思いつき、言いたい放題、まれに真面目といことです。 メールアドレス  moctアットマークkickcoffee.org
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コーヒーを焼く(その2) への1件のフィードバック

  1. チバ のコメント:

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    いつもお世話になっております。
    とても参考になりました。
    しかし、これを読んでも僕にはまだまだ難しいようです。
    焙煎の工程、焙煎中の豆の状態、温度、仕上がりの状態などをきちんとイメージすることできません。
    まずは豆の変化を観たり、温度を確認したり、失敗や成功を何度も繰り返してやっと良い状態がイメージできるようになるのだと思います。
    とてもシンプルに書かれておりますが、そこまで至るにはかなりの試行錯誤を経てからのような気がしました。

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